インドで入籍 (前半)

やっと入籍。 
結婚してから三カ月半が過ぎ、ついに入籍…でも、晴れて入籍…でもなく、やっと入籍。
この言葉の裏には腐敗したインド社会に翻弄された紆余曲折があった。その名は、「Bribe」。

「インドは汚職にまみれている」。
前から噂は聞いていたけれど、その腐敗っぷりは正直、想像を超えていた。
勤勉で礼儀正しい日本人の国民性をインドに対しても無意識に期待する私、アヴァタ―の元で崇高な理想や清らかな理念を培ってきた彼、といったコンビの夫婦が、ただ単に、世間知らずだっただけ、なのかもしれない。

日本なら、区役所に届け出せば終了となるところ、インドには、1.ヒンドゥー教徒婚姻法と2.特別婚姻特別婚姻法の二種類が存在する。
前者の場合、婚姻届提出後、1週間で結婚証明書が発行される。それに対して後者の場合は、両者の写真入りの婚姻届が登録事務所に一カ月間張り出され、異議を唱える者が一人も出てこなければ、晴れて証明書が発行される。

私たちは、前者の、ヒンドゥー教徒婚姻法を選んだ。
そして、「ただの入籍」のハズが、現代裏インド社会への洗礼を受けるきっかけとなる。

婚姻届という機会に、役人や弁護士、寺の僧侶から一般人に至るまで、予想外の不誠実性を露わにお金を巻き上げようとする人々と出会い、そもそも、インドに『汚職』という概念や、収賄に対する怖れが存在するのだろうか、という疑問さえ浮かんだ。ほんと、あんなに街中、神様があふれているのに、一体どの心を使って不正に勤しむことができるのか、理解に苦しむんですけど...。


ここで、あえて詳細を割愛して紆余曲折度をさらっと紹介すると・・・

1.チェンナイで最も由緒のあるシヴァ寺院で挙式。しかし、外国人とわかると色々と(不満の)理由をつけて高額なお布施を要求されると言われ、「セレモニーだけ」、と寺院に報告するようにアドバイスされる。現地語のタミル語が分からない私達は周りの人に任せっきり・・・。結局、これが怒涛巡りの始まりとなる。(寺院にて正式な結婚式を挙げると、結婚証明書が発行される。これを役所に持っていくと申請が簡単になるらしい)。


2. 次に、婚姻届を提出する前に、彼の公式名に名字を追加する。検索サイトで弁護士を探し、地元の新聞で改名発表と、公式証明書発行の手続きを依頼。割高と感じてはいても、その弁護士を信用。翌週、改名記事が載っている新聞と証明書を確認して帰ろうとすると、弁護士の奥さま兼公証人が書類を片手に持ちながら、「支払わないとこれを渡さない・・・!」と即座に200ルピーの追加料金請求。
その理由にあ然...
「ソフトウェアエンジニアだからそれぐらい払えるでしょう…」。そんなお粗末な請求理由、今まで聞いたことがない。これは金額の問題ではなく、仕事人としての道徳心や自己尊厳の問題。このまま続けて婚姻届の申請も依頼しようと思っていたものの、次回は何を言い出すか想定できないため、この弁護士とは縁を切ることにした。
余談として、この夫婦には、日本アニメ好きな女の子がいて、前回、カタコトの日本語でお話をした。おそらく、はじめて日本人相手に日本語を試せる機会を得た少女は、嬉しそうに、そして少し誇らしげに、漫画で覚えた単語や好きなアニメの名前を挙げていた。一週間後、夫婦が顧客と言い争う場面になると、その女の子は「またか…」という顔をしてイヤフォンを付け、険しい眼でPC画面を見入っていた。
可哀そうに・・・。サイババは参拝者に対して何度も繰り返す。「お金は生じると出て行きます。道徳心は生じると育ちます。」こう、いともあっさりと自己尊厳を売り払ってあぶく銭を争う両親に育てられた子の行く末を想うと哀れに思い、「この子が健全に育ちますように、」と祈る思いが込み上げて仕方がなかった。


しかし、時を重ねていく毎に、この「お粗末な請求理由」こそが、「インドの汚職」や「破格の値段提示」を支えていることに気づくようになった。結局、先方は「●●だから払えるでしょう」「●●をしたいならコレを払いなさい」という想定に基づいた言い値を吹っかけている。別に正直に言い値を支払わなくとも、貪欲な交渉能力(ある意味、インドでの生存能力)に長けた人々は、逆に交渉し返して値段を下げられるのでは・・・、とも思う。もう一つの攻略方法は、ピンポイントの決裁者と確固たるコネを作ること…かな。

もとい。


3.前述の弁護士夫婦に、パスポートを発行したプッタパルティ(AP州:アンドラプラデーシュ州)でも、新聞にて改名を発表する必要があると言われ、パルティ在住の知人に地元の新聞記者を紹介してもらう。「スワミの生徒に対して不正を働く人はいないよ。ここは、聖地だし・・・」という言葉を信じてその地元人を信用。パルティのメイン通り、ジャーマンベーカリーの奥の土産物屋さんに連れて行かれた。そしてこの地元人、初めはイイ人・・・フタを開けたらとんでもない!

この人、何枚もの名刺を持っていて、一枚は、新聞記者の名刺。改名記事を依頼するついでに聖地パルティで婚姻登録を・・・と思うものの、これもとんだ誤算。婚姻登録をするには証明写真が必要と言われ、近くの寺院で写真婚・・・のはずが、いつの間にか、僧侶と組んで式を挙げる流れに。(ここで、六千ルピーが彼らの懐に入りました。)
その上、AP州全土に配布される新聞紙に挙式の広告記事を出され、翌日には、出身国を明記(国際結婚)した上で、恋愛結婚を匂わすでっち上げの記事を掲載される。紹介者である知人に問い合わせても、知らぬ存ぜぬで、あの記事は気にしない方が良い、といわれる始末。現地語を訳してもらうと、その記事には「これから、婚姻届を出す」と書いてあったという。

おりしも、数週間前、パルティで一人暮らしをしていた外国人がひっそりと他界してひと騒動あったところ。そんな書き方をされると、私達の結婚にはまったく関係のない部外者が異議を唱え始めかねない。かりに、日本で同じことが行われた場合、(私の性分上)間違いなく異議を唱えて徹底的に戦っていた、と思う。しかし、ここはインド。女性がそういったことをするのは、はしたない。天を仰ぐ思いで事の成り行きを見守った。

ここで誤解を招かないように明言しておくと、この記事は単に、私がインド社会を垣間見た紆余曲折を列挙しているだけであって、決して恨み節ではないこと(笑)。「日本人の想像をはるかに超える多様性の国、インド」という事実に倣い、プッタパルティにも同じく、善人が存在する半面、悪い人も住んでいることを学んだ。


(後半に続く)



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