映画鑑賞


チェンナイの街角にはタミル語ヒンディー語に輸入モノの英語といった様々な言語の映画を上映する映画館が点在し、新聞の映画欄は週末になると、最新作映画の告知や女優のインタビュー記事で一杯に・・・。各地域の映画産業に対する愛称も、ボンベイ(旧ムンバイ)で制作されている北インド映画、“ボリウッド・フィルム”、インド映画の色々な要素を混ぜた“マサラ・ムービー”と呼ばれている他、テルグ映画には、“ Tollywood ”タミル映画は、“ Kollywood ”といった通称が付いていて、それぞれ、確固たるアイデンティティを誇っている。


ある日、車で映画館の前を通りかかった時、彼に「映画館に行ったりするの?」と聞いたら、「良家(グッドファミリー)出身の人は、映画館には足を運ばないんだよ…」というそっけない答えが返ってきて、「へーっ」と思ったことがある。良家といっても何も彼は名門出身とかではなく、農村地帯が広がるパンジャーブ州の地主の息子。義父も義母もとっても素朴な田舎のいい人達である。従って、おそらく彼の言う“グッドファミリー”というのは、道徳的な教えを説く家庭という意味を指す。


日本や欧米では、休日の過ごし方やデートスポットの上位に挙がる「映画鑑賞」。
映画産業が盛んなインドで、「映画館に足を運ぶ」ことに対するマイナスイメージはどこから?という疑問が浮かぶけど、これは単に、衛生観念から来ているのでは?とかってに推測する私。


暗いから世間の目を盗んでデートできる・・・という若者に受ける理由は横に置いておくとして(笑)、暗〜くて太陽の当たらない映画館を、インド人の運営者がこまめに清掃管理したり、新鮮な空気を循環させる配慮をしているとは思えない。座席も、プラスティックとか金属性のサッと掃除ができるものではなく、抗菌不可能な布地のソファーなんかにすると、バイ菌の宝庫・・・。「そんな座イスに座って長時間、映画鑑賞するのは、ご免被りたい」、というのが本音なのでは?と思う。

チェンナイ国際空港(只今リニューアル工事中)にある展望台のソファーシートも、汗やジュースのシミが付着し、所々穴があいていて目も当てられないほど不潔で、願わくば腰を下ろしたくない・・・と生理的に拒否してしまうような代物・・・。照明が当たらない映画館の中は一体どうなっているのやら…!? と、想像すると卒倒寸前に・・・。うーん、でも、こんな細かいことに思いを馳せる自分を思うと、つくづく私は、インド生活に向いていないんだなぁと、深〜い溜息をつかざるを得ません(笑)。


もとい。

では、映画館に足を運ばない人は、映画鑑賞とは無縁?と思いきや、都市部に住んでいれば、インドでも自宅にいながら気軽に映画鑑賞を楽しめる『DVD宅配レンタルサービス』を提供する会社が存在する。ま、三回に一度は約束の日に集荷に来ないとか、配達されていないなんてことはあるけれど、そこはご愛嬌。色々と不便なインドでこんなサービスがあるなんて・・・とちょっと驚いてしまう、インドにしては(?)革新的なサービスだと思う。


映画のラインアップは、アカデミー賞を受賞したハリウッド映画からメイド・イン・インディアの映画
サブタイトルの言語を選べるので、どの言葉を話していても、文字さえ読めれば誰でも映画を愉しめる。ジャンルも、アクション、コメディー、スピリチャル、愛国心にまつわるものまで、非常に豊富で、テレビ無しの生活を送っている私達夫婦には、とっても手軽な娯楽となっている。

ところで、同じくテレビ無しの生活を送っているサティヤサイ大学の寮生たちは、毎週土曜日の夜を「ムービー・ナイト」と称して、一般的な映画を観賞する夜を設けている。そして上映する映画は・・・というと、さすがアヴァターが学長を務める学校…。
学業に支障をきたす内容、不道徳な内容・・・主に暴力的なものや性的なシーンは、上級生が先にスクリーニングを行い、そういったシーンをカットしてから生徒達に上映する、というのがお決まりになっている。

この作業を、教授陣が行うのではなく、生徒が自主的に行っているという所が、民主的でいいなぁと思うものの、イザ、世俗的な映画に慣れ親しんできた私が、無菌状態で美しいものだけを見て過ごした彼と一緒に映画鑑賞をする場合、多少のギャップを覚えることは否めない事実…。


以前書いたブログで、「サイババの学生の妻として」世俗的な人生を謳歌してきた一個人が、いきなり、厳格な寮生活の中で霊的な日々を過ごしてきたスワミの学生のようにふるまうことはできるのかしら?という疑問を挙げたけれど、こういった小さな日常的も、「うーん・・・」、と少し頭を悩ます要素。

というのも、インド人夫である彼はとってもよい人で、「なんでも妻と相談して一緒に決める」という姿勢が根付いている。(これがインド人夫の気質かは他の家庭を知らないので一概には言えませんが、ある程度教育を受けた男性というのは、巷にあふれている“暴君”とか、“男尊女卑”とか“亭主関白”といったイメージとは反し、妻をとっても大切にするらしい)。そして、特にこういった「何を見たい」とか、「何を食べたい」とか些細な(笑)チョイスは、自分の主張を言わずに私の希望を優先させようとするから、「もぉー、かってに決めてよ」、とは言えず、彼の優しさに答え、真摯に対応することが望まれる為、何を選んでよいか決め兼ねることが多い(苦笑)。


そしてその理由は・・・、私が好きなジャンルがラブコメディーや、ドラマ等のハリウッド映画だから。
爆破シーンとか、過激なものは見ないものの、幼少時から慣れ親しんだハリウッド映画には、ストーリー設定の中に、離婚、浮気、家族の不仲、道徳的にNGなブラックジョーク・・・などが、ごく自然な社会設定として描写されている。


例えば、この前観たのは、ロビン・ウィリアムス主演の、『ミセス・ダウト』。
「父性愛を描いた、心が温まるとっても素敵な映画なのよねー」と言って映画を見始めた私達夫婦。
「そう、じゃ、よい内容だったら、後輩たちにこの映画をプレゼントしよう」という彼。


しかし結果は、選択ミス。


夫婦喧嘩を繰り返した揚句、離婚した男女。その後に描かれる子どもに対する夫の父性愛を描いた(欧米ではありがちな)設定は、どうも頂けなかったようである。
途中で彼がボソッと呟いた一言・・・「家族がこんな境遇になるなんて、欧米社会はなんて腐敗しているんだ・・・。」口調から、不遇な家族を想って傷ついている様子も伺える。
「うーん、この映画はムービー・ナイトには寄贈できないよねぇ」と、自らダメだしする私。

そしてこういった会話を何度も繰り返すと、私が了とする殆どの映画に、今まで物ともしなかった、西洋文化にはびこる道徳的NG」が散りばめられていることに気付くに至る・・・。


では、インド映画は素晴らしいかというと、今度は「インドのカースト差別の在り方」について、私が傷つく番。

日本に住んでいれば、多くの人が、かつて福沢諭吉が世に残した名言、「天は人の上に人を造らず 人の下に人を造らず」を信じ、それに沿うように行動する(と思う)。「保守的」と言われる北米に住んでいても、明らかな差別は「野蛮」という意識が、社会全体に浸透しているように思える。
一方で、「差別は、社会を潤滑に運営する区別である」という意識が強いインドでは、日本人が抱くそういった常識は、ほとんど通じない。

ある日、「これ、大ヒットした面白いコメディーだよ」と言われて見た映画は、大富豪に雇われた使用人二人(両方とも有名なコメディー俳優)の一人が、もう一人を面白おかしく騙して散々仕事をさせて、本人は美味しい食事や悠々自適のフリータイムを満喫する、といった内容。

吉本新喜劇のボケと突っ込みに慣れている関西人の私も、「人をこき使ってそのサマを笑うなんて、可哀そう・・・」と、不平等な主人公の境遇に心が痛み、笑うどころではなかった・・・。

うーん、ひょっとして、インド人とは、笑いのツボが違うのかもしれない。場面転換でいきなり人が踊りだす設定も、未だに何故そうなるのか、よくわからないし・・・(笑)。


さて、そんな中で、あ、これ巧い設定だなぁと思ったのが My Name is Khan(私の名はカーン)』。


内容は、アメリカの同時多発テロの後、イスラム教徒である、『カーン』という姓を持った男性とその家族が背負う運命を描いた社会派ドラマ。主演は、キングオブバリウッドと呼ばれている「シャー・ルク・カーン」で、実際、本人も、『カーン』という名前から米国の入国検査官にテロリストと間違われ、拘束され、丸裸にされて取り調べを受けた…という差別を体験した人物。難しい内容を曲げずに、ヒーロー物語に仕上げたこの映画は、久々のヒットでした・・・。


また、結婚当初、彼が行く先々で「良い映画だから観るといいよ」と、勧められた映画がありまして・・・、その名はズバリ、The Japanese Wife・日本人の妻』。

ベンガル出身の女流映画監督・兼女優、Aparna Senが手掛けた映画で、果てしなくプラトニックな夫婦が繰り広げる夫婦愛の物語(2010年4月公開)。

文通(ペンパル)を通して知り合った後に国際結婚し、結局、一度も会うことなく夫を失った日本人妻が、病気で夫が他界したことを機に長い髪の毛を剃髪、初めてインドの地を踏んで夫の生まれ育った故郷を訪れる・・・という設定。

この映画に対する個人的な感想ですが・・・。
日本人女性が持つ一途さとその美徳が描写されていて、このようなイメージがインド人に浸透するというのは日本人妻として、非常に有り難いのですが・・・うーん、それにしても、この内容。もう少しハッピーエンドでも良かったのでは?と思ってしまった私です。

どこかで上映されているかもしれませんので、気になる方はぜひチェック下さい。




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